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とても清潔でとてもひ弱な日本人?
広島大学 天野教授

 

海外旅行で体調をくずされた方は多いのではないでしょうか。またバリ島旅行などで日本人のギャルに限ってコレラを発症しているのも事実のようです。これは日本人が極端に清潔好きで,そのため腸内細菌が少なくなり,体の免疫力が低下しているからだとも言われています。

 

「寄生虫博士」として有名な東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生は日本人の極端な清潔好きがヒトと寄生虫との共生を崩し,コレラやO-157に感染しやすくなり,またアトピーや花粉症,喘息などのアレルギー患者が増えたと説明されています。

 

清潔は感染症を防ぐはずですし,「寄生虫」というおぞましい言葉も出てきて戸惑うのですが,この話はどうも「極端な」という言葉がキーワードになっているようです。確かに寄生虫の一種である回虫の日本人の感染率は戦後すぐには70%もあったのですが,現在では0.1%と激減して,寄生虫病予防法も1994年には廃止されています。学校での検便やセロハンテープでのギョウ虫検査もほとんど,ある年代以上の方の思い出になってしまいました。

 

実は回虫やサナダ虫のように古くから寄生して人間にあまり悪さをしない寄生虫は人間ともちつもたれつの共生関係にあり,人間から栄養を貰うかわりにアレルギー病の発生を抑制する仕組みを持っているのです。

 

人間は異物の侵入や活動を防ぐための仕組みとして「免疫」機能を持っています。異物(抗原)に抗体が反応してその活動を防ぐのですが(抗原抗体反応),寄生虫やその排泄物も異物ですので抗体(IgE)が大量にできます。ところがこの寄生虫由来のIgEはスギ花粉などが入って来ても反応しないもの(非特異的)なのです。この反応しないIgEが勢力を持っていると免疫機能の過剰反応である花粉症などのアレルギー病は起こらないことになります。

 

藤田先生は寄生虫学者の王道?として,自らも長大になる寄生虫のサナダ虫を自分の体の中で飼っていました。ヒロミちゃん,サトミちゃん,キヨミちゃんなど5代にわたり名前までつけて可愛がっていたそうで,確かにご自身の花粉症は治り,ダイエット効果もあったとのことです。また寄生虫由来のIgEを産生する物質を抽出することにも成功しました。しかし,この物質は発ガンや感染を防ぐ能力も抑制する事が分かり実用化はされず,寄生虫の微妙なバランス感覚を思い知らされたそうです。

 

不潔が決して良い訳ではありません。ただ人間も自然界の循環に取り組まれている事を考えると,極端で一方的な共生の破壊行為はまた強烈な仕返しがあることを知っておかないといけないようです。
 

(参考文献:藤田紘一郎著 寄生虫のひみつ(ソフトバンク クリエイティブ),笑うカイチュウ(講談社文庫))
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